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2022/04/21
施設長のつぶやき~選挙権…権利を擁護する事と認知症ケアを考える②~
先日、ネットを観ていると懐かしい映画が売っているのを発見しました。
海の上のピアニストとスウィートノベンバー。
どちらも学生時代に観た映画です。
海の上のピアニストは海の上(船)で生まれ、一度も陸に降りる事なく
人生を送ろうとするピアニスト(ティム・ロス)が主人公です。
スウィートノベンバーはある理由から11月中だけ恋人になるという
切ない恋愛映画です。
まだ観ていないのですが、休日にゆっくり観たいなぁと思っています。
今度はビートルジュースでも買おうかなぁ。
昔の映画がBlu-rayで安く購入出来るので嬉しい限りです。
それでは前回の続きです。
認知症の方は認知機能の低下から過去に出来ていた事が出来なくなります。
それでも過去にやっていた事は覚えていたりもします。
例えば料理や着付けと言った日常生活上の事から、麻雀やカラオケ、パズルなどの
趣味に関する事まで様々です。
昔を思い出し、それらの事をやってみようとする方は結構多いです。
しかしいざやろうとすると自分で思っていた以上に出来ない事もあります。
その時はどうするのか。それは職員がサポートし、必ず成功するように支援するのです。
例えば料理の場合、職員が手伝い一緒に調理し、利用者には出来る事
(極端に言えば食材を鍋に入れるだけでも良いのです)をして頂きます。
そして料理が完成すれば、「〇〇さん料理お上手ですね」と声をかけ
一緒に食べれば良いのです。
稀に職員の中で「失敗して今の自分の状況をわかって貰う事も重要」という人がいます。
確かに身体機能においては、自分が今どこまで出来るのかという事を理解して貰い
到達する目標を利用者、家族、職員間で統一しておく事は重要な事です。
しかし認知機能に関しては当たり前にやろうとした事が出来なかったという事実は
利用者にとてつもない精神的なダメージを与える事になります。
だから失敗に備え必ず成功して頂くという支援が必要なのです。
家族との面会や会話後の不穏という防ぎようのない不穏は仕方ありませんが
失敗に備える事で防げる不穏であれば防ぐのが当然の事でしょう。
それではこれが選挙となればどうなるでしょうか。
失敗に備える事は重要な事です。しかし選挙の投票を手伝う事は出来ません。
だから選挙においては失敗に備える事が出来ません。
(漢字が読めなければ読み上げる程度は出来ますが
選挙で候補者を選ぶ事を手伝う事は出来ませんし、難しいと思わせる事は防げません)。
選挙権は重要な権利であり、それを妨げる事は何人たりとも出来ません。
選挙権を行使して頂く事は重要な権利擁護です。
しかし失敗に備える事が出来ず精神的なダメージを与えるとわかっているのに
(今回はわからずにやった事ですが…)
選挙に参加するのは、認知症ケアという観点からは権利が擁護できているとは
言えないのではないかと思うのです。
私がお世話になっている北海道介護福祉道場・あかい花 代表
あかい花介護オフィス・CEOの菊地雅洋先生もご自身のブログで
「利用者のためを思ってつく嘘は良い嘘で非難されるものではない」というような事を
おっしゃっていました。
失敗に備える事が出来ない選挙において、不穏状態を防ぎ
本氏に精神的ダメージを与えずに済むのであれば、選挙に参加しないという事も
一つの選択肢ではないかと思うのです。
これは選挙権を奪うという事とはないと思います。
しかし当然、かなり慎重な判断を迫られる事ですから
決して一人の判断で断行せずチームで良く検討する必要がある事はいうまでもありません。
今回は選挙権という重大な権利と、認知症ケアの間における一つの悩み
ジレンマを考えてみました。
以前にも申し上げました通り、この業界は算数ではありません。
明確な答えがない以上、一つ一つの事象に真剣に向き合う姿勢が求められるのです。