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2025/01/08
施設長のつぶやき~ご利用者様の買い物事情・制限と「正限」・身体拘束の事も含めて~
皆様、新年あけましておめでとうございます。
皆様はどのような新年をお迎えでしょうか。
私は新年恒例の初詣後の実家帰省、そして地元の友人との飲み会でした。
この飲み会は今年で3回目ですが、3回目の今年も同じ店に行きました。
流石に店長(オーナー??)さんも覚えてて下さり
「去年も来て下さいましたよね」と声をかけて下さいました。
このような声かけは非常に嬉しいものです。
今年もどうぞよろしくお願い致します。
それでは本題です。
少し長いですが新年1回目なので一気にいきます。
入所施設で生活すると人の楽しみの一つである買い物に行きにくくなるという課題が
どうしても出てくると思います。
他の施設の方々は如何されておりますか。
本来、外出支援は自由に行うべきと思います。
希望された方には希望された場所へ希望された日にお連れするのがベストでしょう。
しかし人員の問題でそれが叶わない施設も多いと思いますし
もっと言えば仮に「今すぐにそこのスーパーへ連れて行ってほしい」と
言われれば無理な施設は多いと思います。
ベターな手はケアプランに例えば
「週に1回近隣スーパーへ買い物にいく」という計画を立てお連れする事です。
それもなかなか難しい施設は行事計画書などを作って外出していると思います。
それだけでは足りないので、例えばスーパーやコンビニが実施している出張販売などで
施設内で買い物できる機会を設けている施設も多いでしょう。
規模の大きな施設では売店やコンビニに入って貰っている施設もあると思います。
当施設の場合、定期的に外出支援は行いますが
やはりこと日用品や趣味嗜好品という買い物となれば足りていません。
出張販売も何回か検討したのですが規模がそれほど大きくない当施設では
仮にスーパーに頼んで洋服の出張販売をお願いしても
さほど購入する利用者さんもおられずご迷惑をおかけするように思い
なかなか実施出来ておりません。
まぁこの辺りは一度、出張販売をしている会社に相談してみようかと思ってはいます。
コンビニに入って貰うなど夢のまた夢です。
それでは現在の対応はどうしているか言いますと
まず4階のエレベーターホールに「ボスマート」という自動販売機を設置し
売店代わりにちょっとしたお菓子や軽食などを購入出来るようにしています。
しかしそれでも足りない方には生協さんと個人契約して頂き
好きな物を好きなだけ(ただし居室に収まる程度)購入して頂いております。
しかしここで一つ問題が起きました。
自由に購入しご本人が召し上がる事に何の問題もありません。
しかし一人の利用者さんが
他の利用者さんに職員に内緒でお菓子をあげてしまったのです。
別に利用者さんが利用者さんにお菓子をあげてはいけないという決まりはありません。
しかし皆さんご存じの通り入所中の利用者さん全員が
安全に食事を食べられる訳ではありません。
色々な制限がある方や
飲み込みが安全に出来ないのでソフト食を召し上がられる方も沢山おられます。
アレルギーの問題もあるでしょう。
もし仮に職員の知らない所でお菓子類をあげてしまい何か問題があったら
責任を取るのは私になります。
責任逃れで言う訳ではありませんが
我々は利用者さんへの安全配慮義務があります。
この義務を無視・放棄する事は出来ません。
他人に美味しい物をあげたいという優しさは否定しません。
しかしせめて職員に一言、「このお菓子あげても良いかな」とか
訊いて下されば良かったのですが、それもなくコソッとされてしましました。
少し話は逸れますが私個人としてはこの利用者間での物のやり取りは反対の立場です。
リスクがある以外にも問題があります。
それは貰ってばかりの方が恐縮してしまう事と
下手をすれば上下関係のようなものが出来るリスクもあります。
また物のやり取りが過剰になって行く危険があります。
いわゆるお返しのやりあいがエスカレートするのです。
以前勤めていた通所介護でこんな事がありました。
麻雀や談笑をしながら飴やガム、巣昆布などをあげ合っている利用者さん達がいました。
私たちは「まぁそれぐらいなら…」と見て見ぬふりをしていました。
しかしある日、高級そうなお菓子ひと箱を持参した利用者さんがおられ
さすがにこれはまずいと思い、しっかり話をして自身で持って帰って頂きました。
当初、飴一個程度のやり取りが高級そうなお菓子までエスカレートしたのです。
あのままいっていればもっと高額な商品に変わっていたかも知れません。
高級商品のやり取りはトラブルのリスクが高すぎますし
経済状況によっては利用者さん家庭に大きな負担となります。
そもそも飴一つだって負担になる利用者さんだっているでしょう。
上記の理由から利用者さん同士の物のやり取りは推奨しません。
こんなこと言わなくても問答無用でやり取り禁止としている施設もあるでしょう。
しかし法律で決まってもいないルールを決めるには何事も根拠が必要と思います。
「施設に入ったんだからこうしろ」というは一番悲しい考えと思います。
話を元に戻します。
そのお菓子をあげてしまった利用者さんはどうなったかと言いますと
結果的に購入商品に制限をかけさせて頂く事となりました。
具体的には絶対にあげた事がない酒類と職員の手が入らないと
食べられない果物(リンゴなど)のみを購入して頂く事となりました。
しかしこの買い物に制限をかけるというのは
買い物という権利を侵害する事にもなります。
そこでユニットリーダー会議で対応を検討しました。
議論の中ではやはり安全配慮義務を履行するには
制限は止むを得ないという意見が大半でした。
また買い物をする側の権利は守られるが
貰ってしまう側(認知症などにより断れず貰ってしまう)の
施設内で安全に暮らすという権利が守られていない
という意見で落ち着きました。
後者の意見は以前豊中市からもアドバイス頂いた
身体拘束に関する考えとも類似します。
今は豊中市に身体拘束に該当するかを問い合わせても
よほど明らかな身体拘束と思われる事例以外は回答して頂けず
「施設内で身体拘束適正化・廃止委員会で良く検討して頂き
それが切迫性・非代替性・一時性に該当していると施設側が判断したなら
当市としてはそれを尊重します」というスタンスです。
しかしその時は回答してくれました。
そのケースでは認知症や精神疾患からの不穏で他者に助けを求めるため
他者の居室に入り、肩などを掴んで「助けて下さい」と叫ぶ方がいました。
そしてその居室にいる利用者さんはその事で不快な思いをされていました。
もちろん自分の意思で居室に鍵をかけられる方は良いでしょう。
しかし全ての利用者さんがそうではありません。
そこで当該利用者さんが不穏になった場合
自分の意思で解錠、施錠が出来ない利用さんの居室を職員が施錠する
もしくは何らかの形で当該利用者さんの身体を拘束する事は
不適切かどうか尋ねました。
豊中市からは「確かに身体拘束は最終手段です。しかし当該利用者さんが不穏な時
何の対策も講じなければ、それは不快な思いをされておられる利用者さんへの
施設側のネグレクト(放置・放任)という考え方も出来る」という回答でした。
社会福祉士の私がこの考えに至らなかったのは非常に情けなく思いました。
このケースに限らず切迫性・非代替性・一時性の全てに該当すれば
身体拘束はやむを得ないとなるのは当たり前です。
それでも何故我々がこのケースで身体拘束して良いのか悩みに悩んだのは
我々の身体拘束のイメージというか考え方の基本は
激しい自傷や他害と思っていたからです。
このケースの場合、他害と言っても激しいとまでは言えず
この行為で身体拘束に該当するのかが一番の悩みでした。
しかし「不快な思いを感じておられる利用者さんへの施設側のネグレクト」
という考えに至っていなかった
つまり不穏になる当該利用者側の方にしか視点がいっていなかったのです。
ちなみにこのケースがどうなったかと言いますと
その後間もなく体調を崩され入院となり利用が中止となったので
結局身体拘束をする事はありませんでした。
このケースの考え方を引用すれば
「貰ってしまう側(認知症などにより断れず貰ってしまう)の
施設内で安全に暮らすという権利が守られていない」には
十分な説得力があると思っています。
もちろん小学生じゃあるまいし、あげてしまった利用者さんに反省を促すために
買い物の種類を制限している、つまり意地悪や罰を与えている訳ではありません。
この利用者さんには何度我々が、あげてしまう事のリスクをお話ししても
理解して頂けなかったので、今はリスクを理解して貰うまでの準備期間と考えています。
利用者さんの行動を制限するのは気持ちの良いものではありません。
しかし全ての利用者さんの安全を守るには致し方ない事もあります。
我々の考えは単純な制限ではなく正しく限らせて頂く、「正限」と言えるのです。
この利用者さんがリスクを理解して頂き
一日も早く以前のように好きな物を好きなだけ買える日が来る事を願いながら
新年1回目の施設長のつぶやきでした。
今年もよろしくお願い致します。